iPhone 発表のキーノートに学ぶ会社の株価までも上げてしまうプレゼン方法
かねてから噂されていた iPhone が Macworld 2007 で発表されました。
スピーチの模様は
» Macworld San Francisco 2007 Keynote Address
にて、Watch iPhone Introduction を選ぶと、QuickTime フォーマットの動画で観ることができます。
観終わったあと、ぞくぞくしました。個人的な感想は、「ついに待ちわびていた理想のスマートフォンが登場した」ってところでしょうか。
それにしても、いつも思うのですが、アメリカ人はプレゼンが上手です。Steve Jobs 氏はその中でも別格なのかもしれませんが、僕が働いていたアメリカの会社でもだいたい皆上手でした。
いつか誰かに聞いた話ですが、アメリカ人は子供の頃からプレゼンの方法と、それと「演技すること」を学んでいるから、人前で上手にスピーチすることができるのだそうです。
そもそも、普段の生活からどこかおおげさで芝居がかっているところがありますから、僕らがそれを真似しようと思っても一朝一夕では無理。下手に真似すると「かぶれてる」という印象を与えかねません。
でも、もちろん参考になる部分、見習いたい点はたくさんあります。iPhone に対する絶賛は他のブログに譲るとして、キーノートの動画から、そういった「うまいなあ」「もしかしたら使えるかも」という印象を持った部分、単に感動した部分をまとめてみました。
なお、キーノートの動画は1時間30分に及ぶ長編で、しかも英語です。それでも一見の価値はあると思うのですが、概要だけ知りたいという方には、次のページが日本語で詳細な内容を紹介していておすすめです。
» Macworld 2007:スティーブ・ジョブズ キーノート - Engadget Japanese
動画は、上記ページの 9:41am から始まっているので、たとえば 9:51am の部分を観たければ、QuickTime の目盛りを 00:10:00 のあたりに持っていけばちょうどその該当部分を観ることができます。以下の説明では上記ページからの引用とともにこの目盛りの時刻を記しておきました。
1. 予想を裏切りちょっとした驚きを与える
00:01:19
9:42am - 「今日われわれは、革命的な製品をみっつ紹介する。最初はタッチコントロールのワイド画面iPod」。どよめき。「二番目は革命的な携帯電話」
9:43am - 「そして第三はブレークスルー的なインターネット・コミュニケーション・デバイス。」三番目への反応はやや微妙。とはいえ総立ちに近い状態。
と製品が3つあるのかと思わせておきます。そして、この3つを2度にもわたって連呼し繰り返します。来るぞ、来るぞ、と思わせるこのひっぱり、上手です。
そして、
「iPod、電話、インターネットモバイルコミュニケータ... でも別々の製品ではない!」」
「名前はiPhone!」
3つじゃなくて、実は1つの製品だ、という驚き。実際の動画を見てもらうと、観衆の興奮具合がわかるかと思います。
2. 効果的な引用
00:09:41
アラン・ケイの言葉を引用。「ソフトウェアに対して本当に真剣ならば、独自のハードウェアを作るべきだ」。
Apple が言うと非常に説得力があります。
3. スライドにあわせたスピーチではなく、スピーチにあわせたスライド
スライド全体に言えることですが、文字をほとんど使っていません。多くても2行か3行です。綺麗なグラフィックと効果、そしてスピーチで説明がなりたっています。
一枚のスライドには、その瞬間スピーチしている必要最小限のことしか表現していないのです。
それがよくわかる一例が、
9:53am - 2メガピクセルカメラ、3.5mmヘッドセットジャック、SIMスロット、sleep - wakeスイッチ。下にはスピーカー、マイク、iPodコネクタ
のデザインの説明の部分。00:12:40
iPhone の上面の説明で、Steve Jobs 氏が「3.5mm ヘッドセットジャック」と言っているときには、矢印と Headset の文字が表示されています。次に、「SIMスロット」と言ったときには、Headset の文字と矢印は消えて、SIM を指し示す矢印と「SIM」の文字が表示されるのです。
文字で説明すると、何のことはないように思えてしまうのですが、iPhone の上部の画像に、Headset、SIM、Sleep - Wake を指し示す矢印と説明を全部書いてしまうのが、普通やってしまいがちな過ちではないでしょうか。あるいは順番に表示する効果は加えても、SIM の説明のときに、すでに説明し終わった Headset の矢印は消さずにそのまま、としてしまいそうです。
4. ユーモアを忘れない
いくつか例を。
00:03:00
「アップルは今日、電話を再発明する。これがそれだ」 ネタ画像。拍手。
以下が最高です。しこんであったとしても面白いです。
00:46:28
Google Mapsを表示。スターバックスのPOI(電話番号が表示される)から通話。「ラテを4000人分。失礼、間違いました」。場内爆笑、拍手。
Yahoo Jerry Yang 氏もユーモアを忘れません。
00:56:15
10:36am - iPhoneの「電話の再発明」をネットに。デバイスの世界にWeb 2.0を。「スティーブ、ぜひ一台送ってくれ。住所は知ってるはずだ」
5. 予想を裏切りちょっとした驚きを与える その2
01:04:35
10:46am - 「一番ポピュラーなiPodは$199だ。スマートフォンは?2年契約で$299くらいだろう。」組みあわせれば$499くらい。「iPhoneはいくらにしようか。これはもっと高くするべきだ。」
10:47am - 「では、$499にどれくらい上乗せしようか。これについては本当に考え抜いた。こんな多くの機能があるんだし……」。ひっぱりすぎ。
「さてどうしよう。4GBモデルだとしたら、そのまま$499にしよう。上乗せなし。」
iPod = $199、スマートフォン = $299、それをあわせもった上にほかの機能もプラスした iPhone は両者を足し合わせた $499 以上になっても当然だな、と思わせておいて、「上乗せはしない、そのまま」という結論に持っていくことで、ちょっとした驚きと「お、それなら安いな」と思わせる説得力があります。
6. メモを見ない
Steve Jobs 氏はメモを見ないでプレゼンしています。Google Eric Schmidt 氏しかり、Yahoo Jerry Yang 氏もしかり。彼らはそれをいとも普通にこなしていますが、メモを見ながらおこなっている Cingular Stan Sigman 氏のスピーチと対比させてみると、与える印象の差が歴然としています。
01:08:23
10:49am - 「CingularのCEO Stan Sigmanを紹介できることは……」
Sigman:アップルとのパートナーシップはCingularにとって大変に光栄云々。Cingularはat&tの一部だからat&tとアップル。
Cingularとattを紹介する普通のキーノートに。略。
Stan Sigman 氏にはかわいそうですが、Steve Jobs 氏のスピーチと見比べることによって、悪いスピーチの良い例になってしまっています。
僕が気づいた悪印象な点をいくつか。
- 01:08:23 Stan Sigman 氏はのっそりのっそり登場。00:50:40 でGoogle Eric Schmidt 氏が小走りで登場したのとは対照的です。これが両者が代表している会社のスピードの違いかと思ってしまいました。Eric Schmidt 氏が小走りなのは、少しでも Jobs 氏のスピーチの時間を割かないようにとの配慮なのか、もともとの彼のスタイルなのかはわかりませんが、いずれにしても好感を与えます。Stan Sigman 氏は偉そう。
- 01:08:40 Stan Sigman 氏、最初ポケットに手を入れてスピーチです。これも偉そうですね。
- スピーチ長いです。01:08:23 から 01:14:11 まで6分近く話しています。
7. トラブルはジョークで回避
01:15:00
10:56am - 再びジョブズ。Cingularとの話し合いは2年前から。携帯電話の市場がどれくらい……といったところでスクリーンが変わらない失敗。いつものジョークでフォロー。10:56am - 「ハイスクールにいたとき、スティーブ・ウォズと一緒にTVジャマーというデバイスを作った。TVの周波数を妨害する仕掛けで、バークレーの寮でみんなスタートレックを見ているところにいって………」。ここまででスクリーンが復活。
トラブっても機転を利かしてジョークで回避しています。こういうときに使えるような小話をいくつか用意してあるのかもしれませんね。
8. 社員とその家族への感謝で締めくくる
01:19:40
11:00am - 「ありがとう。ありがとう。この製品のために働いたスタッフに注目してほしい。これに関わったスタッフはみんな立ってもらえるかな? どうか盛大な拍手を。」
11:01am - 「もちろん、われわれの家族にも感謝しないわけにはいかない。ここ六カ月のあいだ、あまりわれわれの顔をみてもいない。家族の支えがなければやり遂げるのは不可能だった。われわれがどれほど感謝しているか、必要としているか。ありがとう。」
ここまでのことはなかなかできることじゃありません。パフォーマンスの一つといううがった見方もあるかもしれないですが、それでも感謝の気持ちをちゃんと表現することはとても大切なことだと思いました。
以上でキーノートのまとめは終わり。
なお、タイトルの「株価までも上げてしまう」についてですが、おおげさな話ではなく、以下のブログエントリーで紹介されているように、iPhone 発表の後、スピーチが進むに従いアップルの株価が上がっているのがわかるかと思います。
元ネタはこちら↓
» 『iPhone』発表にみる海外著名ブロガーの企画力まとめ | P O P * P O P
余談ですが、アップルの社名は、
10:58am - 「Mac, iPod, Apple TV, iPhone。"コンピュータ"と考えられるのはMacだけだろう。よくよく考えてみた。われわれの名前もそれを反映したものにすべきだろうか。」
「今日から、われわれはただのアップルになる。「コンピュータ」は付かない。」
とキーノートで発表されているように、Apple Computer, Inc. から Apple Inc. に変わったようです。
↓ 日本のサイトではまだ Apple Computer, Inc. のままですね
この社名変更の発表もドラマチックに演出されていて上手いです。01:17:15
2007/01/11 15:08:11