最近はAI(Claude Code)に指示してWebアプリを作ることが多いのですが、その中で一番便利だと思う自作ツールを紹介します。
僕にはとても役立つものの、他の人にはほぼ無用です。まさに「完全自分専用ツール」です。テーマは、2年前から続けている趣味のチェス。
チェスでは実際の盤を使う対局をOTB(Over The Board)と呼び、ネット対戦と区別します。リアル対局には独特の緊張感や楽しさがあり、各地にチェスクラブが存在します。僕はそのひとつ、世田谷チェスクラブによく参加しています。
僕の実力は初級~中級の間くらい。あるとき強いスペイン人ピアニストの方と対局させてもらい、当然完敗しましたが、親切に指導をいただきました。そのとき「チェスが上達するには?」と聞くと、古典的な対局から学ぶのが良いと助言され、紹介されたのが Master of the Chessboard という名著でした。
さっそくKindleで読み始めたのですが、すぐ壁にぶつかります。
この本は1923年初版(英語版は1930年)で、棋譜(例:1.e4 e5 2.Nf3 d6)と解説が交互に掲載されています。上級者なら棋譜だけで盤面を思い描けますが、僕には駒を実際に並べないと理解できません。結果、読むのがとても大変でした。そこで「AIに読ませて、わかりやすく解説してもらおう」と考えたのです。
先日setagaya chess clubにてMasters of the Chessboard(1923年出版!)をすすめられました。チェスの本というのは棋譜と解説が混在していて初級者にはとにかく読みにくい。そこでClaude Codeに全文ぶちこんで、一手ずつわかりやすく解説するアプリを作らせたところ、めちゃめちゃわかりやすい。 pic.twitter.com/pTNv6kbFUG
— 石原淳也(Junya Ishihara) (@jishiha) July 8, 2025
MOTC (Master Of The Chessboard)
アプリはGitHub Pagesで公開しています。
https://champierre.github.io/motc/
ただしログインしないと利用できません。理由は著作権です。日本では保護期間が切れているようですが、米国では不明。世界中からアクセスできる以上、安全のためログイン必須にしました。本を購入済みで利用してみたい方は https://x.com/jishiha までご連絡ください。
AI開発の実際
アプリはClaude Codeに全面的に任せました。大まかにやったことは、本の全文を渡し「盤面を用意して棋譜を一手ずつ日本語で解説して」と指示することではありますが、実際には以下のコミットログのように、タスクを細かく分け、段階的に指示して進めています。
棋譜の例:
1.e4 e5 2.Nf3 d6
AIはこれを読み取り盤面にアニメーションできますが、時に誤解します。例えばNf3はナイトの移動ですが、ゲームが始まった時点で両者2つずつ持っているナイトのうち、どちらのナイトが移動したのかは明記されません。人間ならルール上どちらが動けるか自明ですが、AIは誤ってあり得ないナイトを動かすことがあります。その結果、以後の手順も崩れてしまいます。
そこで chess_validator.py
というPythonプログラムをAIに作らせ、すべての手をルールチェックする仕組みを導入しました。これにより盤面の正しさは100%保証できるようになりました。
次の課題は翻訳です。AIはKingを「王」とせず「キング」と訳したり、Materialを「物質」と訳したりします。そこで誤訳が出るたびに正しい用語を提示し、CLAUDE.mdというチェックリストに追記して学習させました。
さらに僕のような初中級者向け機能として、駒の軌跡表示や棋譜欄で手番(白/黒)が一目でわかる工夫も追加しました。
こうして完成したのが、極めてニッチながら自分にとっては最高に便利なアプリです。
まるで日曜大工で自分専用の道具を作るように、AIに頼めば自分専用のアプリを手軽に作れる――そう実感しました。
2025/08/27 11:13:00